一年に一度のチャンス。
去年は失敗したが、今年は万全の準備をしたつもり。
魔法使いの祖母の元で5年間修行し去年、独立開業した大宮修子は
この日の為に1ヶ月程かけて用意した道具が並ぶ研究室の床に広げた
3メール四方の大きな布の前に気合をいれた。
墨汁に筆をつける。これただの墨ではない。
魔方陣専用に魔力を生み出す宝石の粉を混ぜた特別なものだ。
筆だって特注品。
大きな布に一面に描くのは魔方陣。
魔方陣に書き込むのは星空。
星空を投影することで研究室と宇宙を繋ぎエーテルを呼びこむ事ができる。
エーテルを得るには宝石が必要だ。
魔力を充填する事ができればさまざまな奇跡を導きだしこの仕事を円滑に
進める事ができる。祖母の家には、そのような宝石がたくさんあり、
大宮修子はその宝石を貸してもらって仕事をしている状況だ。
これができれば本当の意味で独立できる。彼女が気合が入るのも当然だ。
「それでは、と……」
大宮修子は、まず大きく2重の円を描く。
そして、手帳を開くと魔法数学者達が長年の研究により完成させた永遠を概念で表現する数式を
使った宇宙空間を表す計算式ををする外周に魔法陣に書き込む。
円の中心部分に北極星を表すと言葉を書き込むと、ここからは占星術書から得られた知識と
日々の
天体観測が活かされるところだ。星々の運行の概念を文字で表すのだ。
あとは
月を描くだけで完成だ。
月と魔方陣を同期させるのは、魔法使いにとっては初歩的な技術だ。
月の魔力は利用目的は限定的だが、非常に扱い易い。
人類が誕生して、いや生命が誕生した時ですら夜の空に浮かぶ月を古代の魔法使い達の研究の
材料にしない点はないだろう。そうした知識の積み重ねは、古代から口承され、近代は書物として
そして今ではコンピュータを使って魔法使いであれば誰にでもいつでも利用できる状況である。
大宮修子は、ふと研究室の窓の外を見た。暗闇で覆われている。この静かな街で明かりを付けているのは
ここしかないのではないかと思った。ふう、ため息をつくと、紅茶を入れることにした
宇宙と月、魔方陣と地球の位置のタイミングをあわせる事がこの魔方陣の重要なポイントだ。
計算によればその時間まであと1時間もある。
それまで少し心を落ち着かせるのも大事だろう。前回は、あせりすぎて一個の宝石にしかエーテルを
呼び込めなかったわけだし。
前回は未熟さは、今思えば笑い話だろう。一個一個の数式をまじめに何度もチェックしていたら時間が過ぎていたのだ
あわてて月を書いて見たものの時間切れ。今回はその点は抜かり無い。リハーサルをすでに3回もこなしたし、
チェックも十分だ。
薬缶が湯が沸た事をしらせると、ガスの火を止めティーポットに注ぐ。
テーブルに昨日、買っておいたクッキーと紅茶を置くと、ソファーに座りテレビを付けた。
チャンネルを切り替えると、すでに一線から退いた芸能人が商品を宣伝する番組と、ゴールデンでは見たこともない芸人が
B級アイドルを弄る番組とアニメの映画がやっていた。彼女はどれにも興味が無かったが一番見れそうアニメの映画で
手を打つことにした。
そのアニメ映画は、新聞のテレビ欄から察するに、少年達が一人の少女と出逢い友情、恋愛模様そして別れを描く物語のようだった。
「時間までこれを適当に見てるかー」
アニメはすでに中盤であったが、ソファーに寝転んでクッキーを頬張った。
大宮修子が何より興味を持ったのは恋愛模様である。彼女の学生時代には、好きな人もいたし、他にも同級生達と遊んだ思い出もそれなりに
あったが放課後や土日は、祖母の元で魔法の修行を行っており、そういった時間が少なかった。
別に今の自分に後悔はしていないが、正直いって憧れがあるのは否定できない。
食べかけのクッキーが皿に置かれ紅茶は冷めていた。
アニメはすでにスタッフロールが流れており、彼女は涙腺は決壊していた。
「はぁ、なんて素晴らしい作品に出会えたのかしら。たぶん10年に一度の傑作じゃないかしら」
どうやら、ヒロインの少女の境遇が彼女の琴線にふれたようだった。
途中からヒロイン自分のように思えてしまった。前半みてないし、明日、DVDを借りてこようと
心に誓った。
床に落ちてたタオルで顔を拭くと、紅茶を一気に飲みほした。皿とティーカップを片付ける為に立ち上がった。
床には30分前の完璧な宇宙が姿が再現されていた。
冷や汗が止まらない。いや目眩もするかもしれない。
「ぬわっ」
大宮修子は、今までにない強烈な自己嫌悪から脱却する為に気合の掛け声を入れた。
過ぎた時間は、取り返せないわけで、前向きに考えたほうが良い。
明日は、まず、祖母から宝石を借りることにしよう。祖母なら私が今日失敗することを見越して
エーテルが格納され宝石を用意してくれている事だろう。
ついでにDVDのレンタルショップをさがしてあのアニメ映画を見るのだ。
明日も忙しくなるぞー、やることがいっぱいだ。体力をつけておかないとダメだよね。
ということ事で大宮修子はとりあえず、寝ることにした。